カーネギーホール Carnegie Hall in New York
1890年代のニューヨークは Ladies Mile の全盛期だった頃で、街の商業・文化の中心はユニオンスクウェア周辺でした。そんな時代に何故遠く離れた 57th Street に大きなコンサートホールを作ろうと思ったのか。そこは先見の目があるカーネギーのこと、ミッドタウンにできはじめたビルやマンションを見て、街の中心はセントラルパーク一体まで広がると読んでいたのでしょう。実際、カーネギーホールができる少し前には有名なダコタハウスがさらに北側 Central Park West 72nd Street に完成しています。
現在のカーネギーホールは非営利団体として運営されていますが、建設当初はヨーロッパのコンサートホールに対抗するような営利団体としてスタートしました。辺鄙な場所に作られたことも影響してか初年度は赤字。収益を増やすために上層階を増設(1894年)したり、56th Street 側に 12階建てのビルを増設(1895年)、57th Street にもビルを増設(1896年)してほぼ現在の原型が完成しました。次の写真は 1891年の建設当初と増設後 1910年頃のものです。周囲には大きな建物はほとんど無いことがわかります。
カーネギーホールはニューヨークフィルのために作られたと言っても過言ではありません。1842年、ウィーンフィルと同じ年に生まれたニューヨークフィルですが、楽団の運営は必ずしも順風満帆だったとは言えませんでした。1878年にはライバルとなるニューヨーク交響楽団が創設され、このオーケストラがカーネギーから特別の保護を受けることになるのです。1891年のカーネギーホールのこけら落としは、チャイコフスキーの指揮でニューヨーク交響楽団により行われたようです。
ニューヨーク交響楽団はニューヨークフィルとは別物でしたが、1928年に合併してニューヨークフィルハーモニー交響楽団となりました。伝統あるニューヨークフィルが吸収した形です。当時のニューヨークフィルの常任指揮者はスゴい人ばかりです。1925年からの2年間はフルトヴェングラー、そのあとはトスカニーニなんです。機会があればニューヨークフィルの歴史もまとめてみたいと思います。
さて、現在もカーネギーホールが残っているのはアイザック・スターンというアメリカを代表するバイオリニストのおかげです。カーネギー家がホールの運営を行っていたのは1925年までで、カーネギーの死後に不動産は売却されました。1960年にはニューヨークフィルが新設のリンカーンセンターに移ることになり、それにあわせてオーナーはカーネギーホールを取り壊して高層ビルにする計画を発表したのです。その時に立ち上がったのがアイザック・スターンを中心とする音楽家達なのです。結果、ニューヨーク市が買い取ることになりカーネギーホールは生き延びることができました。
非営利団体になったとは言え赤字を出し続けてよいわけではありません。最大のお得意様であったニューヨークフィルは直ぐ近くのリンカーンセンターに拠点を移してしまいましたし。カーネギーホールには3つのホールがあり、現在はリサイタルホールとして使われている 599席の中ホール Zankel Hall は 1900年頃から American Academy of Dramatic Arts に貸し出されています。その後、2000年初頭まで映画館として使われています。
1960年頃からニューヨークは暗黒の時代に入ります。凶悪犯罪と殺人事件が急増して1990年には2,245件もの殺人事件が発生しました。私がニューヨーク近郊に住んでいた頃も 2,000人くらいが毎年殺されていて、ハドソン川に死体が浮かばない日は無いとまで言われていました。そんな時代ですから治安も悪く、カーネギーホールがあった7番街もかなり乱れていて、1970年代にはカーネギーホールの中ホールでインディーズやゲイのポルノ映画が上映されていたという記録もあるそうです。
建設当時の写真と現在の姿を比べてみても外観に大きな違いはありません。私はいつも運が悪く、カーネギーホールに入ったことがありません。入口の隙間からのぞき見ただけですが、ロビーはさほど広くなく凝った作りではなさそうですね。同じ時期に建てられたウィーンの歌劇場に比べると・・・雲泥の差というか、あの豪華で荘厳な装飾の足下にも及ばない(笑)。
現在は57th Streetの増設部分に60階建ての Carnegie Hall Tower が建てられています。私が居た1980年代後半頃に建設が始まっていました。
ホールの内部ツアーもやっていると思うので、次回、もしもニューヨークに行く機会があれば是非とも参加してみたいと思っています。
カーネギーホールで世界初演が行われた主な名曲をあげてみました。
1893年 ドヴォルザーク作曲 交響曲第9番「新世界より」(ニューヨークフィル)
1904年 R. シュトラウス作曲 家庭交響曲(ウェッツラー交響楽団)
1928年 ガーシュイン作曲 パリのアメリカ人(ニューヨークフィル)
1944年 デューク・エリントン作曲 A列車で行こう(デューク・エリントン楽団)
1944年 ヒンデミット作曲 ウェーバーの主題による交響的変容(ニューヨークフィル)
1961年 バーンスタイン作曲 ウェストサイトストーリー(ニューヨークフィル)
ホールのこけら落としでチャイコフスキーが指揮をしたのもスゴいですけど、世界初演の数も沢山あり伝統を感じます。
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